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 スターメー・アーチャーASCの全構成パーツです。関心があるのは、どうやって固定ギアにしているかです。また通常の3速のようにノーマルギアがダイレクトドライブではなく、0%=-10%==25%のマイナスだけのギアレシオになっているのはどうしてか気になります。
 こうしてパーツを見渡すと、2個のアクスルピンを使った4/5速系の構造になっていることと、クロスレシオモデル共通のカスケード機構のための左側遊星ギアをもっていることがわかります。
  構造図は例によってハドランド氏のブログを参照ください。
 
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  固定ギア化の方法は、この(右側の)プラネットケージで、ラチェットの代わりに外周に4個の突起が飛び出しています。
 
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 ハブシェルは、通常はローギア用のラチェットトラックがある場所が4個の突起になっています。プラネットケージの突起とこのハブシェルの突起が常時噛み合っていることで固定ギアになっているわけです。当然ここにもバックラッシュがあるわけで、構造上何カ所ものバックラッシュが重なって大きくなってしまうのがASCの泣きどころと言えそうです。
 
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 それでは各ポジションでの伝達方法を見てみましょう。これはハイギアの状態です。他のモデルと同様に、スプロケットの駆動力はドライバーからクラッチに伝達されます。トグルチェンが引かれていないので、クラッチはクラッチスプリングの圧力でプラネットケージに押し付けられており、その突起と噛み合っています。前述のとおりプラネットケージは常時ハブシェルと噛み合っていますので、スプロケットの駆動力は加減速なくハブシェルに伝達されます。
 
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 ノーマルおよびローギアの状態です。トグルチェンに引かれてクラッチは右に移動します。するとプラネットケージへの噛み合いが外れ、駆動力は直接プラネットケージには伝達されなくなります。
 
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  同じくノーマルおよびローギアのときのクラッチとギアリングの関係です。トップギアでは噛み合っていなかったクラッチとギアリングですが、クラッチが右に移動するとギアリング内側の突起に噛み合うようになります。したがってスプロケットの駆動力はギアリングに伝達さrます。こうなるとギアリングが入力点、プラネットケージが出力点となる遊星ギア機構が働き、減速が行われます。ノーマルギアとローギアがともにマイナスレシオとなっているのがこのためです。
 普通のモデルでは、ハイギアではプラネットケージが入力点、ギアリングが出力点となって増速が行われます。しかしASCでは、ギアリングはハブシェルとラチェットで連結しておらず、プラネットケージが常時ハブシェルと連結しているので、遊星ギア機構を利用した増速が行えないわけです。
 さてそれでは、ノーマルギアとローギアのシフトはどう行われているのでしょうか?
 
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 ノーマルギアとローギアのシフトはこの「左側」部分が担当しています。これはノーマルギアの状態です(ハイギアでも同じ状態ですが伝達には関係していません)。2個のサンピニオンのうち右はアクスルシャフトと噛み合っていない状態です。左のサンピニオンは常時アクスルシャフトに固定されています。ローギアドッグは左のプラネットケージに噛み合っています。したがって左プラネットケージは右サンピニオンと等速で回転します。
 すなわち実質のサンピニオンは左側のサンピニオンで、左プラネットケージを介して右サンピニオンが回転し右プラネットピニオンから右ギアリングに伝達されます。この2段がけの遊星ギア機構がカスケード機構で、実質的にサンピニオンを小さくギアリングを大きくしたのと同等になりクロスレシオとなります。
 というわけでノーマルギアは、カスケード機構を使ったクロスレシオの減速になります。
 
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  それではローギアではどうなるかといいますと、クラッチが右いっぱいにあるのにさらにトグルチェンが引っ張られて、それまで強いローギアスプリングで押されて左プラネットケージに噛み合っていたローギアドッグが右に動きます。すると右サンピニオンと左プラネットケージの噛み合いが外れ、カスケード機構は働かなくなります。
 
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  これは右サンピニオンをずらせてその内側を見たところです。これはノーマルギアの状態で、ローギアドッグが左プラネットケージと噛み合っています。ローギアの状態では、ローギアドッグは右に移動し左プラネットケージから外れると同時に、その内側の突起とアクスルシャフトの突起が噛み合います。ローギアドッグは右サンピニオンと常時噛み合っていますので、ローギアでは右サンピニオンがアクスルシャフトと噛み合った状態となります。
 これはカスケードでない通常の遊星ギア機構の状態です。したがってローギアではノーマルレシオの減速が行われます。ASCのローギアとAWのローギアがー25%で同じなのはそのためです。
 以上をまとめますとこうなります。
  ハイギア:右プラネットケージからのダイレクトドライブ
  ノーマルギア:左遊星ギア機構のカスケード機構によるクロスレシオの減速
  ローギア:右遊星ギア機構だけを使ったノーマルレシオの減速
 しかしノーマルギアひとつのために複雑なカスケード機構を組み込んでいるのには驚きます。ちなみにカスケードを構成する左遊星ギア機構のパーツはすべてFW、FC、ACといったクロスレシオモデルと共通です。
 逆にASC専用パーツは何かといいますと、ハブシェル、右プラネットケージ、右ギアリング、インジケーターロッドぐらいです。なお右ギアリングはラチェットの加工を省いただけのものです。
 こうして見ると、非常に少ない変更点で特殊な3速固定を実現している合理的な設計に感心します。ASCも、スターメー・アチャーの作った素晴らしいプラネタリウムなのでした。